鴨志田康人さんと語る、革靴“必要”論

「装いは、靴で決まる」ーそう断言するのは、メンズファッションにおける
世界的キーパーソンと名高い鴨志田康人さん。装いの自由化が進む今だからこそお伝えしたい、革靴との向き合い方。魅力的な着こなしを築くうえで欠かせない、靴選びの極意をお届け。
かもした・やすと 1957年生まれ。多摩美術大学で建築を学び、卒業後はファッションの道へ。ビームスを経てユナイテッドアローズに創業メンバーとして参画。2018年にオフィスカモシタを設立し、現在は2008年から運営する自身のブランド「カモシタ」をはじめ、ユナイテッドアローズ クリエイティブ アドヴァイザー、ポール・スチュアートやフェリージの日本におけるディレクターなど国内外のブランドに携わる。日本を代表するウェルドレッサーのひとりとしても知られ、今年3月に刊行された英国『Permanent Style』のプリント・エディションでは表紙を飾っている。
「靴が決まらなければ、シャツやネクタイ選びも決まりません」
ー今や日本だけでなく海外のメディアでも頻繁にお見かけする鴨志田さん。着こなしを拝見すると、いつも素敵な革靴を合わせていらっしゃいますが、やはり普段から足元はもっぱら革靴、という感じですか?
鴨志田 いえ、実はスニーカーもよく履いています。ご期待に添えずすみません(笑)。毎日の服装は誰と・どんな目的で会うのかを念頭に置いて決めていますから、メディアに出るときは自然と革靴が多くなっているというわけなのです。とはいえ昔から革靴は好きですから、カジュアルスタイルにも革靴を合わせることはしばしばありますよ。
ーそれは失礼いたしました……やはり足元の装いも非常に幅広いんですね。ところで鴨志田さんは「コーディネートを決定づけるのは靴である」という持論をお持ちだとか。靴は洋服に比べて面積が小さいので、つい脇役とみなしてしまいがちですが、そこまで重要視する理由はどこにあるのでしょうか?

鴨志田 端的に言うと、靴は服以上に“性格”が色濃いからです。クラシックやモードといった大きな枠、あるいは同じクラシックのなかでも、ブリティッシュだとかアメリカンだとか、ファッションにはさまざまなキャラクターがあります。それが極めて高い濃度で凝縮されているのが靴なのです。英国靴が象徴するジェントルマンな佇まい、アメリカ靴の飾らない親しみやすさ、イタリア靴のスタイリッシュな魅力……そういった靴の性格をどう取り入れるかで、装いの方向性が決定づけられるのです。正統派を貫くのか、ハズしを楽しむのか、ハズすならどういう狙いを込めるのか。足元はそういったコーディネートの意図を代弁するものだと考えています。
ーそれは深い……! “お洒落は足元から”という格言は真実なんですね。
鴨志田 それから、全体のカラーコーディネートをまとめるうえでも靴は非常に大切です。たとえば今日はベージュのスーツにタバコブラウンの靴、そしてターコイズブルーのシャツを合わせていますが、同じスーツに焦げ茶の靴を合わせるならシャツの色も変わってくるでしょうし、場合によってはネクタイやポケットチーフを加えるかもしれません。ジャケット・シャツ・ネクタイ・チーフの組み合わせをVゾーンとよびますが、靴が決まらなければVゾーンも決まらないのです。

ベージュのウールギャバジンで仕立てたビスポークスーツに、同系色のスエードタッセルスリッポンをコーディネート。発色のいいブルーのシャツが初夏の爽やかさを感じさせます。「ダブルブレストのスーツはノータイでドレスダウンしやすいのも魅力。その足元はやはり、軽やかな靴が似合います」(鴨志田さん)

「ソックス選びもコーディネートを完成させるうえで重要なポイントになります」と鴨志田さん。この日はベージュ×ブラウンの千鳥講師柄ソックスを合わせ、パンツ・靴の色とそれぞれリンクさせながらさりげないアクセントも効かせています。
ー靴がほんの少し変わるだけで、コーディネート全体が一変してしまうということなんですね。ちなみに鴨志田さんは最近、どんなデザインの革靴を履くことが多いですか?
鴨志田 特に最近というわけではないのですが、昔から足元は軽やかなのが好みで、スリッポン系の靴を愛用しています。革靴を履くときは、およそ7割がスリッポンでしょうか。なかでも好きなのが、今日も履いているタッセルローファー。スーツにも合わせることができますし(注:クラシックの装いルールでは、スーツにローファーを合わせるのはNGとされている。ただしタッセルローファーは例外で、昔からスーツスタイルでも用いられていた)、ちょっと遊びのあるソックスとも相性がよく、それも楽しいポイントです。

鴨志田さんが愛用するタッセルスリッポンの一部。アメリカのオールデンやベルジャンシューズ、イギリスのボードイン&ランジ、イタリアのストール マンテラッシやタニノ・クリスチーなど、多国籍な顔ぶれです。

「私見ですが、コインローファーよりもタッセルスリッポンのほうが色柄の効いたソックスを合わせるのに向いていると思います。そこがまた好きなポイントなんですよね」(鴨志田さん)
ー今回TOKYO FOOT TAILORでオーダーいただいた際も、即決でタッセルローファーをお選びいただきましたね。
鴨志田 そうですね。革も英国チャールズ・F・ステッド社のブラウンスエードにピンときて、迷わず決まりました。ソールはオーソドックスにレザー製ですが、底に薄いハーフラバーを貼って滑りにくくしています。
ー仕上がりを履いてみて、率直に感想はいかがですか?
鴨志田 まず、履き心地のよさに驚きました。靴を手に取ったときから非常に軽量なことはわかりましたが、実際足を入れてみても大変快適です。底がしなやかに曲がることも履き心地に大きく貢献していますね。さらに特筆すべきは、クッション性のよさ。底が薄く柔らかい靴はしばしば、歩行時の衝撃が足へダイレクトに伝わって歩き疲れてしまうのですが、これならその心配もなさそうです。
ーそこはまさに我々の真骨頂です。フットラップ製法という浅草独自の技術を用いていて、硬い中底を省いて靴を仕立てられるため、抜群の柔らかさを実現できます。足がやさしく包み込まれるような履き心地を実感いただけるのではないでしょうか。

今回鴨志田さんがオーダーした一足。見た目にも柔らかなブラウンスエードが、軽快な仕立てのフットラップ製法にマッチしています。オーダー価格は5万8,300円。商品はこちら

靴の内部に通常用いられる中底を排することで、驚くほど柔らかい履き心地を実現できるのが「フットラップ製法」の特色。クッション材も入れているため、長時間の立ち仕事や外回りによる疲労を軽減できます。
鴨志田 イタリアにボロネーゼ製法という作り方がありますが、それに近い履き心地ですね。それからやはり、オーダーならではのサイズレンジも印象的でした。ウィズが6種類もあるのが凄いですね。
ーそうですね。C〜4Eという幅広いウィズ展開と、23.5〜28cmという足長を組み合わせると、サイズバリエーションは60にも及びます。デジタル技術を活用した採寸ともあいまって、ジャストフィットの一足をお届けすることができます。

靴のサイズとして一般的な足長に加え、足の幅を表す足囲(ウィズ)のバリエーションも幅広く選べるのがTOKYO FOOT TAILORの強み。ジャストフィットな革靴がなかなか見つからないという方にもおすすめです。
鴨志田 僕は今回、あえてタイトなサイズでオーダーしました。スエードは履き込むと伸びてくるので、最初はキツいくらいがちょうどいいんです。そういった微妙な塩梅も、これだけサイズ展開があれば融通が利きそうですね。そしてデザインもなかなかいい。ちょっとパリっぽい雰囲気もあるのかな。見た目にも軽やかな印象です。靴底の張り出しがほとんどないので、それも軽快感につながっていると思います。
ーそれは嬉しいお言葉! 世界の一流靴をご愛用の鴨志田さんにご納得いただけるか不安でしたが……
鴨志田 インポートシューズ好きの人でも満足できるレベルだと思います。海外の靴には独特の“味”があって、それが長らく靴好きたちの心を捉えてきたわけですが、近年になって日本のシューズブランドのなかにもいい味をもったものをちらほらと見かけるようになりました。TOKYO FOOT TAILORもそのひとつだと思います。履き心地も大切ですけれど、やっぱり靴は格好よくてこそ! ですからね。


ビジネスシューズの定番であるストレートチップやプレーントウに加え、コインローファーやダブルモンク、グルカシューズなど幅広いデザインからお選びいただけます。革はフランスの名門アノネイ社と、日本の実力派メーカーから厳選したバリエーションをご用意。
ーありがとうございます。目の肥えた靴好きから革靴ビギナーまで、幅広い方々にフィットする靴をTOKYO FOOT TALIORは目指しています。
鴨志田 そのポテンシャルはあると思いますよ。スニーカーに慣れた人にとって、革靴といえば“硬い・重い”というイメージが先行してしまうと思います。実際は革靴もきちんと足にフィットしたものを選び、しばらく履き込んで馴染ませれば充分快適なのですが、それでも履き慣らすという手間にはハードルの高さを感じるでしょう。その点、TOKYO FOOT TAILORは履いた瞬間から軽くソフトなので、我慢の必要がありません。それでいて、ジャストフィットの革靴ならではの心地よさも知ることができます。いっぽう普段から本格靴に親しんでいる人にとっても、ひとつの選択肢として充分満足できるクオリティを備えていると思います。サイズレンジが広いので、既製靴がなかなか合わないという人にもいいでしょうね。今はベーシックなデザインが中心ですが、そこがもっと充実してくればさらに魅力的なブランドに育つと思います。今後に期待していますよ!

